高野理恵子さん:地域の人が活動・活躍するコミュニティレンタルスペース「ひなたやまロッジ」から、飯山の魅力をデザインして発信

飯山市の菜の花公園を見渡せる場所にあるコミュニティレンタルスペース「ひなたやまロッジ」。周囲の自然が感じられる心地よい空間は、ご近所の人たちの気軽な集まりや、絵画教室などの会場として、地域の人たちに利用されています。

住まいに隣接する空き家を購入したことがきっかけで、このレンタルスペースをオープンした高野理恵子さんは、個人事業主として起業し「ひなたやまデザイン」を設立しました。

レンタルスペースの運営以外にも、地域の魅力や文化をつないでいくための取り組みをはじめた高野さんにお話をお聞きしました。

菜の花公園から見る、木々に囲まれたひなたやまロッジ

夫婦と子供3人で暮らしていた高野さん一家に、ご自宅のすぐ隣りにあった空き家を購入しませんか? という話が舞い込んできたのは、4人目の子供がもうすぐ産まれるというタイミングでした。

かつて日帰り温泉施設だった建物は、結婚して今の住まいに暮らす前から空き家の状態で、長年その存在が気になっていたとのこと。

「この話をいただいたのもご縁あってのことと思い、家族で2か月くらい話し合いをして購入することにしました。その時はこの建物をどう活用していくかまったく決めていませんでした」と高野さん。

子育てのかたわら、建物内の残置物を片付けたりしながら、ここで何をするか、この建物で何ができるかを1年くらいかけて考えたそうです。

まずはゲストハウスや民泊を検討してみました。保健所に通い、建物の構造や法令などを調べると、宿泊施設に改修する場合は資金もかかり、イベントを開催する場としては使えないことも分かって見送りに。

やがて新型コロナウイルスの感染が広がり、人々の生活や働き方のスタイルも変化していく中で、「コワーキングスペースはどうだろう?」とひらめいた高野さん。「このまま空き家にしておくこともできないと思ったので、どうにか人に使ってもらう方法を考えて、最終的に、コミュニティレンタルスペースにすることに行きつきました」

子どもたちが保育園や学校に行っている日中にできること、という条件もクリアできます。

そして、家族で手間ひまかけながら建物の内装をリノベーションし、予約制で日帰りプライベート空間を利用できるコミュニティレンタルスペース「ひなたやまロッジ」を、2020年の秋にオープンしました。

ひなたやまロッジの玄関ロビー

地域の人が活動・活躍する場を提供したい

ひなたやまロッジは、30畳の大広間、10畳の和室、ダイニングキッチンをそれぞれレンタル利用することができます。一棟丸ごとのレンタルも可能です。8台まで停められる駐車場も整備されています。

それらの施設をどう利用してもらうか? 高野さんは地域の方の活動・活躍の場を提供したいという思いから、まずは知り合いを通じて声をかけることにしました。

「お茶飲み話で知ったのですが、教室をされている方で、いい場所がなくて困っているという方がいて。じゃあ、よかったらうちを使う? とお声がけしていきました」

ご夫婦でアーティスト活動をしている、アイコ美術工藝社の相子さんにも声をかけたところ、ちょうど子供向けの絵画教室をやりたかったということで、とんとん拍子にひなたやまロッジで定期教室を開く話が決まりました。

ステージもある30畳の大広間スペース

グループでの利用も多く「ご近所の方が集まっての食事会やお祝い事、子育て中のママの会や趣味を楽しむグループの集まりなどに使っていただいています。食材を持ち込んで料理をして食べたり、レストランの料理をテイクアウトして食べたり。カフェだと人の目が気になりますけど、ここはプライベートな空間ですので気兼ねなく過ごしていただいているようです」

窓が多く明るいダイニングキッチン

コワーキングスペースとしての利用も考えて、Wi-Fiやプロジェクターも完備。その設備を使って、各種講座やワークショップ、自主制作映画の上映会イベントが行われたこともありました。

いまのところ宣伝にはお金をかけずに、口コミや、ネットでの情報発信で利用者を増やしてきました。秋には友人が主催するマルシェのイベント会場としての予約も入っています。

地域の魅力をデザイン、ストーリー化して発信

ひなたやまロッジを運営するにあたり、高野さんは個人事業主として「ひなたやまデザイン」を設立しました。屋号のひなたやまは、土地の小字名の日向山からきています。デザインには「地域のものを作り上げていく」という思いも込めているそうです。

レンタルスペースの運営だけではなく、ひなたやまデザイン独自企画も実施したいと考えていた高野さん。飯山市が実施する、飯山グッドビジネスミーティングの令和3年度プログラムに参加し、アドバイザーから「ネットで地域の情報を発信してみたらどうですか?」と提案されたことで、新たな取り組みを始めました。

まず着目したのは、飯山市の伝統的工芸品に指定されている和紙『内山紙』。

「子供たちが通っている小学校では、原料になる楮(こうぞ)を栽培して皮をはぎ、雪さらしをして、和紙を作る工程を学びます。そして自分たちで作った内山紙が卒業証書となって生徒に渡されるんです。ところが2年後には閉校になることが決まっていて…。地域の文化がひとつ消えてしまいます」

高野さんは「地域に根付いているものをつないでいきたい」という思いを、同じ瑞穂地区にある阿部製紙の3代目であり、和紙職人の阿部拓也さんに相談し、まずは自分で楮を育ててみることにしました。

楮は、紙漉きできる成木に生育するまで最低でも3年かかる植物です。今回、阿部さんの協力で試験的に10本植樹しましたが、越冬して根付いたのはその内の3本のみでした。高野さんは、地域で培われてきた文化や伝統を少しでも繋いでいける一助になれればと、長い目で見てやっていこうと思ったそうです。

その一方で以前から依頼を受けることがあった筆耕(熨斗や賞状、宛名書きなど、筆で文字を書くこと)を発展させた筆文字デザインを、ひなたやまデザインの事業として開始しました。

紙に文字を書くことで、内山紙を活用することもできます。

「自分で育てた楮で内山紙を作って使う。育てたものが、いずれ暮らしに役立つものになっていくという循環を魅力的に感じます。何かをつないで、ストーリー性のあるものを生み出すことを発信していきたいと思います」

左は母の日に気持ちを込めて書いたもの。右は菜の花の丘をイメージしたもの。「内山紙に作品を残すことは緊張もしますが、幸せなことです」と高野さん。写真提供:ひなたやまデザイン

表に出ていない、地域の魅力を発掘したい

ケーブルテレビ局「iネット飯山」開局の際に新卒で入社して7年間、カメラを持って地元飯山の取材、撮影から出演までをこなしていた経験がある高野さん。他にもいま興味があるのは、地域のお年寄りのお話しを聞くこと。

「社会福祉協議会のボランティアで、おじいちゃん、おばあちゃんの買い物や家の掃除などのお手伝いをしているのですが、そこで聞く話がとても興味深くて、まさに生活の知恵のかたまり! といった感じなんです。そんな表に出ていない魅力を発掘して、本にまとめたり、映像に残して伝えていければいいなと」

数年ぶりの豪雪だったこの冬、スノーシューでひなたやまロッジの周辺を歩き、冬にこそ雪国飯山ならではの体験イベントができる!  という発見もあったそうです。

「まだよちよち歩きですが」と言う高野さんですが、ひなたやまロッジという場とともに、地域の魅力や文化をデザインし、発信していく取り組みは、さまざまな方向に広がっていきそうです。

(2022年5月取材・撮影:佐々木里恵)

ひなたやまデザインのサイト

https://hinatayamadesign.com/

ひなたやまデザインのInstagram

https://www.instagram.com/hinatayamadesign/

「飯山Good Business Idea発表会」高野理恵子さんプレゼン動画