飯山市内に小さな家を購入し、自分たちが望む“セルフ・サステナブル(自給自足)”なライフスタイルの実践をはじめた、アメリカ出身のサムさんとイギリス出身のリアンさん。地域の人たちとつながったことで、さらに理想に近づき、戸狩温泉スキー場のすぐそばで、ロッジ「ハンターズゲート」を営んでいます。
元旅館を全館一棟貸切のロッジにリノベーション
10年以上前に閉業し、3年ほど空き家だった旅館をリノベーションしてオープンさせた「ハンターズゲート」。客室は7部屋で、19人まで宿泊可能。男女別の大浴場や、自炊ができるキッチン&ダイニングもあり、全館一棟貸切というスタイルで営業しています。
ロッジの名前、ハンターズゲートは、地名の「戸狩」をアレンジしたもの。
「戸がゲートで、狩がハンター。ロッジは集落のいちばん上にあって、ここは山への出入り口。そんなイメージにも合う」とサムさん。
ロッジのリノベーションは、できる部分はなるべく自分たちでやったそうです。
こちらは和室を、落ち着いたトーンの洋室に改修した客室。廊下に面したガラス窓には、友人が撮影した写真を貼り、インテリアのアクセントになっています。
集客はネットで。レビューが重要
2018年12月に、初めてお客さまを迎え入れました。冬はインバウンドが80パーセント。オーストラリアや香港、台湾、上海、ベトナム、シンガポールなど、アジアからも予約が入るそうです。
今シーズンはコロナ禍で、インバウンドのお客さまが見込めないため心配だったそうですが、国内在住の外国人や日本人のお客さまで、1〜2月は前年比の5〜8割ほどの利用がありました。
集客はOTA(Online Travel Agent)で、複数の予約サイトを利用しています。
「メインはAirbnb。利用されたお客さまのレビューが重要で、ハンターズゲートは評価が最高のファイブスター(5つ星)」と、にっこりするリアンさん。経験豊富なホストに与えられるスーパーホストのステイタスも得ています。
サマーシーズンは、大きなテントやテーブルも利用できるように整備したバーベキュースペースが大好評だったそうです。
「キャンプ場とそんなに変わらない料金でバーベキューができて、シャワーもエアコンもあって快適に泊まれる。貸し切りだから他の人がいなくて安全だし、自分の家みたいにリラックスできる。ペットもOK、子供が駆け回って騒いでもOK。ここなら問題ない!」とサムさん。コロナ禍で望まれる新しい旅行スタイルにフィットしています。
*おすすめのアクティビティやレストランが書かれたボード。アクティビティの第1位はサムさんによるスキーレッスン! インストラクターの資格をお持ちです
飯山で実現した理想のライフスタイルとロッジ経営
ALT(外国語指導助手)として日本にやってきたふたりは、長野市や高山村で英語を教えていましたが、スキー、スノーボードが大好きで、雪があるところに住みたかったそうです。
スキーができて、広い土地があるところ、新幹線があるのも便利。いろいろ比較して飯山市に決め、結婚して戸狩地区の北条(きたじょう)集落にあった家を購入。「自分たちで家をリノベーションしながら、畑をやったり、ヤギやニワトリを飼ったり」と、セルフ・サステナブルな生活をはじめました。
別荘として使われていた小さな家にはシャワーがなく、自分たちで部屋を改装したり、浴室の設置工事をしながら「まるで工事現場みたいなところに住んでいた(笑)」そうです。
そんな様子を心配した家の元オーナーから提案があり、リノベーションの間、空き家になっていたこのロッジを借りて住むことになったのです。
いつかロッジをやりたいと資金を貯めていたふたり。しばらくして「ここでロッジをやってみないか?」と、さらなる提案が。
ALTの仕事は勤務期間に制限があるので、ずっと続けることはできない。飯山に住み続け、大好きなスキーを楽しむために、このロッジを経営することは良い選択肢だった。「今がチャンスかなと思った」とサムさん。
北条集落の仲間たちから、応援やサポートがあったことも感謝していると言います。
「他の集落の人から、北条で良かったねと言われたことがありました。北条は昔から個性があっておもしろい人、変わった人が多い集落だったそうです」と、サムさんは楽しそうに笑います。
*ロッジには北条で稲作をしている水野尚哉さんの「Faith Farm」のお米や、地酒「北光」のワンカップが入った自動販売機が置かれていました
地域での連携や、環境を守る行動を
地元ならではのローカルグッズやアクティビティの紹介など、地域で連携した観光開発を念頭に置いているふたりは、冬に比べて来訪者が少ないグリーンシーズンに、他の事業者と組んだインバウンド向けツアーで集客することを計画中です。
「かつて修験場だった小菅での山伏体験や、近くの農場で農作業体験をして収穫した野菜を食べるツアーを企画中」とリアンさん。
ロッキー山脈の麓、アウトドアのメッカでもあるコロラド州ボルダー出身のサムさんは、飯山の豊かな自然に、ポテンシャルやチャンスがあると感じています。
「ボルダーには山やスキー場があり、街の中でサイクリングやジョギング、川でカヌーを楽しむ住人がたくさんいます。地元の人が日常的にアウトドアを楽しみ、アウトドアの文化を作れば、それがビジネスになるし、そういうライフスタイルを手に入れたい人たちが外から集まってくる」と語ります。
そんな自然への思いは、環境を守ることの意識や行動につながっています。
「このロッジにはエアコンを設置して、灯油を使わないでがんばっています。4、5年後にはカーボンフリー(二酸化炭素の排出を実質ゼロにする)を目指しています」
ほかにも再生紙のトイレットペーパーを使ったり、ペットボトルの飲み物を販売しないなど、できることはやっていますが、コロナ禍でいろいろなものが使い捨てになってしまい、プラスチックごみが増えてしまったことが気がかりだそう。
食に関しても「遠くから車で運ばれてきたものではない地元の食材や、動物にやさしい飼育環境ものを意識して選択している」と言います。これらの行動は「知識として知っているからやっている。知っていて行動しないのは、自分自身が落ち着かないから」とサムさんは言います。
「冬が大好き、雪が大好き! 10年後、20年後も雪が降ってほしい」と願うふたりにとって、環境を守る行動をするのは当たり前のこと。これからのハンターズゲートがどう進化していくのかたのしみです。
(取材・撮影:佐々木里恵)