太田千草さん:ご近所の方々をデザインでサポートする仕事を、持続可能なかたちで続けていきたい

ご近所の方々をデザインでサポートする仕事を、持続可能なかたちで続けていきたい

大好きなスノーボードを、ニュージーランドや北信州で楽しんでいた太田千草さんが、長野県飯山市に移住したのは15年前。
築100年ほどの民家をリノベーションしたご自宅で、夫と6歳のお子さんと暮らし、ウェブサイトやパンフレットのデザインの仕事を個人で受けています。
飯山の豊かな自然環境をうまく活用したプロジェクトや、地域での関係性を大切にした仕事の仕方についてお話をお伺いしました。

スノーボードをしながら、どこででもできる仕事を

太田さんは千葉市出身。 絵を描くのが好きで、大学の芸術学部を卒業後、東京の広告制作会社で写真のデザインの仕事に携わりました。その当時はデザイン業務がアナログからデジタルに移行をしていく時期で、コンピュータを使ってデザインをするようになりました。

「スノーボードがしたくて」という理由で、約10年間勤めた会社を辞め、ニュージーランドへ旅立ったことが転機に。

ワーキングホリデーでニュージーランドに1年間滞在し、「これからは会社勤めではなく、独立してできる仕事をしたい」と思い、ホームページの作り方を独学で学んだそうです。

千葉市にある実家と、ニュージーランドや北信州を行ったり来たりながらスノーボードや仕事をするという自由な生活を数年ほど続け、「居心地がよかった」飯山にインスピレーションを感じて移住。

冬はカメラマン、夏は造園の仕事をする現在の夫と結婚し、一時は仕事の都合で長野県内の別の町に移ったものの「飯山で子育てをしたい」と思い、5年前に戻ってきたそうです。

仕事の依頼は、ほぼ口コミ紹介で

ニュージーランドにいたころから、仕事の依頼は「ほぼ100%口コミ紹介」で来るのだとか。

最初のきっかけは、知り合いのスノーボーダー選手のホームページを作ったことでした。「誰が作ったの?」と、口コミで評判が広がり、選手のスポンサー企業のサイトを作ることになったそうです。

ここ飯山でも、口コミで仕事が舞い込みます。
ご近所の戸狩温泉にある宿のサイトや、パンフレットのデザインを引き受けています。

「近くに住んでいると、何かわからないことがあるなら、すぐ会いに行けるし、お互いやりやすいですね」と太田さん。

信州いいやま観光局の依頼で、信越自然郷のアウトドア・アクティビティに関するパンフレットなどのデザインも多数手がけています。

「サイクリングのマップを作った時は、よく知っている地域のことだったので、デザインしやすかったです。昔会社にいたときは、まったく知らない土地の地図を作ったりもしていたので…」

高橋まゆみ人形館にある、ギャラリー雪あかりの催事PRはがきのデザインは、太田さんが開館当初から手がけています。

地域外の視点も踏まえながら、その地域をよく知る人がデザインすることで、より良く、そしてより多くのものが伝わっていると感じました。

飯山の豊かな自然環境を活用したプロジェクト

地域外の仕事でも「飯山ならでは」なプロジェクトがあるそうです。

長年続けているアウトドアウェアの商品パンフレットやサイト制作の仕事では、夫がカメラマンなのでイメージ写真の撮影を受けることも可能に。

「飯山には豊かな自然があるし、スキーヤーやランナーもたくさんいる。すぐそこの自然の中でカメラマンの夫が写真撮影をする。そして私がデザインしたパンフレットやサイトができあがる。わざわざ東京からカメラマンやモデルを連れて来なくても、ここ飯山で、この家の中で全部できちゃうんですよ!」

太田さんが制作しているTetonBros.のサイト
https://www.teton-bros.com/

自然環境に恵まれた飯山に暮らすメリットを最大限に活用しつつ、効率もいい。何かヒントになりそうなプロジェクトですね。

地域内の仕事は、お互い無理をせずに

現在、地域内と地域外の仕事のバランスはほぼ半々。

「1人で仕事をしているので、クライアントの要望通りにできない時もあります。地域の仕事はそんなときに『すみません』と言える立ち位置で、無理をせずにやっていきたい」

そのかわりに、通常よりもお安く受けているそうです。

チャレンジする人を、デザインでバックアップしたい!

個人事業主として仕事をする太田さん。dressingworks(ドレッシングワークス)という屋号の由来は?

「いろいろな仕事に、友達を巻き込んで、知り合いが増えて…。混ぜておいしいものができればいいなと。実はこの名前、友人が考えてくれたんです」

とはいえ、人を増やしてもっと仕事を受けたり、自分で新しいビジネスをしたりということは、たぶん苦手…。大きくすることにピンとこないそうです。

太田さんが望むのは「穏やかに、こつこつと仕事を続けていく」ということ。

「近所の誰かがチャレンジする時に、それをデザインでバックアップできたらおもしろいですね。私は縁の下の力持ちで!」

ご近所の方々をサポートする仕事を、お互い無理せずに、いい関係を保ちながら持続可能なかたちで続けていく。それが地域で気持ちよく暮らしていくコツでもあるのでしょう。

仕事の合間に、眺めのいい庭にある菜園で気分転換のひとときを。

ここ飯山だからこそ実現できる、仕事と生活が調和した絶妙なワークライフバランスかもしれません。

(取材・撮影:佐々木里恵)