木内マミさん:なべくら高原の野菜とフレッシュハーブを発信。体験を通して食と農に触れる喜びを

なべくら高原の野菜とフレッシュハーブを多くの人に体感してほしい

なべくら高原に開かれた「ひぐらし農場」で、20種近くのハーブを栽培している木内マミさん。農場は、父の順一さんが20代だった35年ほど前に一から切り開いた4.5ヘクタールの農地で、360度、山並みの雄大な景色を一望できる場所です。

農場の一角にあるマミさんのハーブ畑のほかに、両親と兄の晴基さんと共に、キャベツやレタス、さやえんどう、白菜、ほうれんそうなど、多様な野菜を栽培。ただ野菜を育てるだけでなく、収穫体験などを通して食と農に触れる喜び、なべくら高原に広がる自然の心地よさを多くの人に感じてほしい―と動き出しています。

海外への憧れ

幼少期は、ひぐらし農場で「野放しで育った」というマミさん。

「外食もしたことがなかった」というくらいに、飯山の自然と食と農の環境でのびのびと育ちました。

そんな生活環境とは全く違う海外での暮らしに、小学校高学年の頃から興味をもちはじめたといいます。
高校1年生の時にホームステイで、初めての海外生活を体験。「もっと広い視野を持たないといけない」と痛感し、高校卒業後に1年間外国語の専門学校に通い、アメリカの短期大学に留学。卒業後は、アメリカの大学に編入するための資金を貯めるために、21歳で帰国。

「このまま飯山に帰ってくるという気持ちは全然なくて、一時帰国のつもりでした」。

実家に住みながら、飯山の道の駅「花の駅千曲川」で働き始めました。

突然の発病

働き始めてから程なく、身体への異変は急に起こり始めました。

朝起きたら、突然、左手の第二関節がこわばる症状に見舞われました。ペンが握れず、倦怠感で食べることもできないほどだったそうです。

どんどん症状が進んでいき、病院で診てもらった結果、一生付き合わなければならない病気だということがわかり、急遽、2か月半に及ぶ入院生活がはじまりました。

薬の強い副作用で顔はパンパンになり、一切外出のできない日々。

「友だちは大学生活や旅行で楽しんでいるのに、自分だけ何でこんなことに…」。

はじめの1ヵ月ほどは、同じことを毎日ぐるぐる考えてしまう日々だったといいます。

 

考え方を変えるきっかけになったのは、同じ病室で出会ったポジティブな女性の姿でした。

「60~70代くらのおばあちゃんなのに、アメリカに住んでいて英語しかしゃべれない孫と話がしたいと言って、skype(ビデオ通話アプリ)を使って英語教材を開いて会話して、すごくパワフル。私はずっと若いんだから負けていられないと思いました」。

それからは、「落ち込んでいても仕方がない。病気とベストフレンドになって入院生活を楽しもう!」と気持ちを切り替えることができました。

「農業女子」の活動

退院後しばらくは、体調を見ながら道の駅の仕事と畑仕事、半々の生活を続けました。

身体はくたくたに疲れるけれど、心はリフレッシュしていることを感じ、「体はこれを求めているんだ」と感じたといいます。

4年ほど前、フルタイムで農業を頑張ろうと考えるようになった頃、県の「NAGANO農業女子」の2期生に選ばれ、東京・銀座にある長野県のアンテナショップ「銀座NAGANO」で県の農業をPRするなどの機会がありました。

活動する中で、県内の様々な農家に出会い、それまで自分の身近しか知らなかった世界が広がり、「いろいろな農家がいるんだ!」と農業の奥深さに目覚めていきました。

全県単位だけでなく、北信の農業女子グループ「NJ北信」にも加わり、マルシェを企画したり、情報交換を兼ねた飲み会で親睦を深めたり。

「小さい子をおんぶしながら活動している人も多くて、刺激をもらっています」。

同年代の仲間がいるありがたさを感じているそうです。

ハーブとの出会い

「病気とうまく付き合わなくちゃ」と気持ちを切り替えたときに、トウモロコシのひげ茶を飲むと良いという話を聞いて、漢方に興味を持つようになりました。

父がカモミールを作っていたことを思い出し、ハーブについて調べているうちに、1つのハーブにもいろいろな効能があると知り、ハーブの面白さにはまっていきました。

一時期、なたまめ茶を飲んでみましたが、続けるには高価。「畑ならいっぱいあるし、自分で育ててみよう」と、父からたたみ一畳分の畑をもらって、栽培をはじめました。

退院したのは冬だったので、実際に栽培を始める前に市販のハーブから始めることに。自分でブレンドしたハーブティを飲んでいたら風邪をひきにくくなり、「自分でも簡単にできるんだ」と実感。

現在は、収穫したハーブはなべくら高原森の家で提供したり、道の駅やマルシェのイベントなどで販売をしています。

「もっともっと、ハーブの良さを知ってもらいたい」と願うマミさん。

同じような病気で悩んでいる方に気楽にフレッシュハーブティを飲んでもらえる機会を提供したいと考えています。

兄のUターンで動き出した夢

昨年8月に、兄の晴基さんが飯山にUターンし、現在は共に農場を切り盛りしています。

晴基さんのアイディアで、8月4日にはじめて、ひぐらし農場でハンバーガーのイベントを開催。参加者に、その場で収穫し調理した野菜をハンバーガーに挟んで、青空の下で食べてもらうという内容です。

マミさん自身も、収穫体験などにもっと力を入れたいという思いはずっと持っていましたが、日々の忙しさでなかなか形にできていませんでした。

晴基さんの勢いに引っ張られるようにして、あっという間に当日を迎えました。

「本当に人が集まるのかなと心配だった」というマミさん。当日は、30人以上が集まるほどの大盛況でした。

「普段はナスが嫌いで食べられないという子が、おいしいといって食べてくれたことがすごくうれしかった」。

ナス本来の魅力を感じられるジューシーさは、採れたてに勝るものはありません。

子どもにとって、食育はすごく良いことなんだと実感したといいます。

「今、お店ではカット野菜が多くて悲しい。野菜本来の味、形を見てほしい」。

収穫を体験し、採れたてを食べられる場を充実させたい。

野菜だけでなく、オリジナルブレンドでフレッシュハーブティも提供したい。

訪れた人々に自然を満喫してもらおうと、木立のなかにハンモックや空中のテントを張るなど、アトラクションを考えるのも楽しんでいます。

これからも、イベントを開いたりして、多くの人になべくら高原を知り、来るきっかけを提供したいと夢は広がります。