池田剛さん:廃棄されていた鹿革を生かして持続可能なスモールビジネスを目指す

NPO法人「ぱーむぼいす」(*)の理事長、池田剛(つよし)さんは、地元で捕らえられたニホンジカの皮を製革し、革製品の素材として蘇らせる「鹿革プロジェクト」を進めています。
*NPO法人ぱーむぼいす…不登校や引きこもりの青少年の自立支援、高卒資格取得支援、小学生からの学習支援など、社会になじめず困難を抱える若者たちの支援事業に取り組んでいるNPO法人

鹿革プロジェクトをスタート

10年ほど前から猟友会に所属している池田さんは、動物に対する畏敬の念を持って向き合う狩猟の先輩たちから、地域の中に製革の技術がないために、仕留めた鹿の革を生かすことなく廃棄せざるを得ない現状を知りました。
そこで、「革をなんとか生き返らせることができないか」と考えるようになり、2年ほど前から鹿革を自分たちで製革し、職人さんたちに革を提供するプロジェクトを開始。
地元の高社山にちなみ、高社山が見える範囲の素材や人の手を借りて作る鹿革ということで、ブランド名を「高社鹿革」と名付けました。

化学薬品を使わず自然素材にこだわる

一般的に出回っている鹿革は重金属のクロムをなめし剤にしています。クロムなめしは、短時間に大量に、やわらかい革に仕上げられるメリットがありますが、金属アレルギーの人が身につけると危険であること、燃やすと有害な「六価クロム」が発生することなどの弊害があります。
池田さんは持続可能な事業であることにこだわり、大量生産ではなく1点1点手作業で、クロムではなく天然の材料でなめします。
今年は柿渋やミョウバンと塩をなめし剤に使用。地元以外の柿を使いましたが、来年に向けて地元の柿を使った柿渋作りを研究中。さらに、来年はブドウの搾りかすなどでチャレンジする予定です。

今年は、さらにやわらかさを出すために加脂剤の研究にも取り組みました。
油脂分は乳化させないと革に浸透していきません。
乳化剤に一般的には界面活性剤などを使いますが、池田さんは大豆レシチンを使用。
加脂剤には米の油などを使おうとしており、自然素材由来のものを使うことと、地域の材料で地域の人材が作る「地域の内製化」にこだわっています。
「これからは、ビッグ、グローバルビジネスではなく、ローカルで完結するスモールビジネスの時代。足りない革を外国から輸入したり、なめしを県外の工場に頼むようなやり方は持続的なやり方ではない。自分たちの地域の鹿なのだから、自分たちでやればいい」と池田さん。
地産地消とは違い、鹿革を革職人たちに使ってもらい革製品に生まれ変わらせてもらうことで、高社鹿革を各地に届けていこうとしています。

革の個性を生かして

革を干して伸ばしてしごいてやわらかくする工程がありますが、革の厚さによって水分量が違うため、ものによってかかる時間が異なります。
状態は1つ1つ違い個性豊かで、様子を見ながらやらないと穴が開いてしまうため、革と対話をしながらの作業。1枚完成するまでに1ヵ月以上かかります。
今はまだ試作段階。革に和紙のような硬さがあり耐久性に心配があるため、改良を重ねさらに柔軟性のある革にしていくといいます。
毎月1点、飯山市出身で現在は信濃町に工房を構える革職人「オンドワークショップ」の木村さんに頼み、高社鹿革で革製品の試作をしてもらい、革の改良のアイディアももらっています。
池田さんは「木村さんのいいところは、その革の個性を生かしたものを作ってくれるところ。このプロジェクトの趣旨を理解し、この革の良さを知ってくれる人とつながり、そういう人たちを増やしていきたい」と期待を込めています。

鹿革で若者の就労支援

製革の事業は現在、NPO法人「ぱーむぼいす」で行い、6~7人の若者がなめし作業をしています。ゆくゆくはNPO法人から独立させ、ビジネスとして一本立ちさせることを目指し、革そのもののクオリティで勝負していくという意気込みで取り組んでいます。
「若者たちの将来の自立のため、働く場所を作りたい。全国各地に同じような製革のユニットがあって、それぞれの地域で目が届く範囲で素材を集めてモノづくりができれば、それが持続可能な形だ」と話しています。

鹿の「命の旅」を続けさせる

製革の仕事をする若者、革職人、また柿や米などの素材の生産者など、鹿革を取り巻く人を増やし、地域課題解決というゴールに向けてより広く、いろいろな人の手につなげていくために、ビジネスという形にこだわる池田さん。
「地元で生きた鹿の命は、地域の人たちの手を借りて世に出してやろうという気持ち。個体としての命は止まってしまうが、革製品に生まれ変わることで命がつながれ、生きていた頃のようにこれからも旅を続けていく。そして最後はまた自然にかえっていく。鹿革ビジネスを通して、持続可能な地域づくり、社会づくりをしていきたい。これってSDGsかな?」
「お金」の流れではなく、「ありがとう」の流れを考える―そこから生まれる持続可能な循環型の地域づくりに池田さんは挑戦しています。