戸狩温泉スキー場近く、民宿が多く建ち並ぶエリアにある「Cafe&ber&music ambis(アンビス)」。青と白が基調の外装に、インテリアもアメリカンな雰囲気の店内で出迎えてくれるのは、オーナーの福澤龍一さん。
「楽しい事、好きな事しかしていない」と話す福澤さんの店には同級生や地元の常連さんが集まります。
「ambis」は、英語の「ambitious」(大望、野心のある)「ambient」(周囲の、環境の)などから連想して福澤さんが考えた名前。
そこには、「店を開いたのがゴールじゃない」という思いが込められています。
長野市内の店で働いていた20代
ambisは、福澤さんが生まれ育った実家の程近くに2012年にオープン。
もともと実家で所有していた築40年ほどの建物を全面改装しました。
スキー場のすぐ近くという立地のため、冬のシーズン中は常連さんだけでなくスキー客で賑わいます。
店をやりながら、実家が営む民宿の仕事も手伝っているため、冬はフル稼働で忙しくなるといいます。
高校生の時、世界各国でレストランを経営し自由に生きる高橋歩さんの著作を読み、高橋さんが影響されたというアメリカ映画「カクテル」の世界に魅了され、料理とお酒の仕事にあこがれるようになった福澤さん。
高校卒業後は長野市の調理の専門学校に進学し、長野市に移住。仕事を決めずに卒業し、「かちっとした雰囲気の料理屋ではなく、フリーな感じで楽しそうな店、ないかな」と探していたところ、カフェバーやライブハウスを経営する長野市の企業に出合い、アルバイトで働き始めました。
飯山で子どもを育てたい
結婚し子どもができたことを機に、長野市での仕事を辞めて飯山にUターン。
現在は、妻と小学生の娘2人と実家で暮らしています。
自然に囲まれた場所で育った福澤さんにとって、季節の移ろいは肌で感じるものでした。
「この草が枯れてきたから秋だな、この匂いがしてきたからもう冬だ、というのがなんとなくあった。長野市に住んでいると、それを感じないまま『あれっ、もう1月だぞ』みたいなことがあった」
長野市で働いていた頃、店は街の中心部にあり、飯山では五感で感じていた季節感を感じることがなくなっていました。
小学生の頃、家のそばを流れる川に入って魚を捕って家に帰ったり、わざわざ遠回りをして田んぼ道で帰ったり。その1つ1つの体験が福澤さんの心の中にあります。
自分の子どもにも自然を体で感じてほしい―。それが飯山に帰ってきた大きな理由の1つでした。
子どもの時遊んだ川
酒のある空間の魅力
「酒のボトルが並んでいるのが大好き。よく見ると、それぞれにデザインがされていてこだわりを感じる」と、カウンターの後ろには、色とりどりのラベルのボトルをずらりと並べています。
新型コロナウイルスの影響でお客さんの数は少し減ってはいるものの、「全然大変じゃない。肩肘張ってやっているわけではないし、自分さえいいと思えば続けられる」と話します。
「酒は好きだけど、自分はあんまり飲めない。酒があって、いろんな話をしている、その空間が好き」という福澤さんのところには、同じように酒が飲めなくても空間を楽しみにやってくる仲間もいます。
福澤さんの同級生やその仲間、地元の常連さんはもちろん、冬のお客さんたちも、カウンターに隣り合わせ、初対面の知らない人同士でもお酒と共に会話が進みます。
なぜか、冬場のスキー客が増える時期に、地元のお客さんも増えるといい、「非日常の賑やかな雰囲気を味わいに来るのかもしれない」と話します。
何かを起こすきっかけづくりをしたい
37歳の福澤さんは、店の今後について、「同年代や若い子たちが『作戦会議』をする場所にしたい。その気持ちは店を始めたときから変わらない」といいます。
「たまたまカウンターで出会ったお客さん同士でビジネスの話になり、そこで仕事を頼んだり頼まれたりということも実際あって。自分が一言『〇〇さん、地元でこんな仕事しているんですよ』ときっかけを少し作るだけで、後はお客さん同士で盛り上がっていく。最高に面白いです」
人にけしかけたり、何かを起こすきっかけづくりをするのが好き―。
でも、今はまだいつものメンバーが中心なので、もっといろいろな年代の人が出会い、「こういうことやろうよ」と“小爆発”を起こすきっかけになる店にしていこうとしています。
「何かを自分一人で起こして『俺がやったぜ』みたいなのは全然興味ない。それを起こすきっかけづくりをして、空間や地域を楽しみたい。『あそこのマスター、引き出しいっぱい持ってるよ』みたいな、相談に行けば何かいいアドバイスもらえるかもよ、っていうような人間でありたいし、場所でありたい」
楽しいことしかしていない
年齢を重ね、日々の中で村の役の仕事などの「楽しくない事」もあります。
それでも、「考え方次第でいくらでも変えられる。たとえば『これをやってみんなからありがとうって言われると楽しいな』とか。だから、自分自身とみんなに向けていつも『俺、楽しい事、好きな事しかしてないから』と言い聞かせるように言うことで、楽しくない事も楽しい事にしちゃう」と、どんな状況もプラス思考に考えます。
「楽しい空間にしたいと思っている人間が楽しい事をしていなかったら駄目ですよね」と笑う福澤さん。
「楽しい事しかしていない」と言い切る福澤さんの空間を共に楽しむお客さんたちが、今日も店に集っています。