そば屋発 人がつながる地域の交差点へ
冬はスキーのインストラクター、夏はフリーで様々な仕事をしながら、両親と共にそば屋の切り盛りする深田さん。現在は営業活動やweb発信などを担当しつつ、時々店でも腕をふるっていますが、そろそろ店へ専門的に入れるかなというタイミングで、これまでのこと、そして今後の夢などをお聞きしてきました。
そば粉と水のみで打つ生粉(きこ)打ち十割そばとは
「『こんなに歯触りがしっかりしてつるつるしているのに十割のわけがない!』というお客様もいらっしゃって、その方には『よかったら、朝来て打っているところを見てください。』と話しました。そしたら、本当に翌朝いらっしゃって、うちのそば打ちを見て唸っていました。」と笑いながら話してくれたのが、店の二代目となる悠平さん。
そのお客様は自身でそばを栽培するほどのそば好き。そばもあちこち食べ歩いているので、そばについては相当詳しいのだそうです。
だからこそ、信じられなかったのでしょう。つなぎも入れず十割で打ったそばにこれほど歯ごたえがあるとは。
十割そばと言えば、ぼそぼそした食感をイメージする人も多いのではないでしょうか。
通常「十割そば」は、小麦粉を入れない”そば粉十割”であっても、”つなぎ”を入れているところが多いのです。
ところが、同店では、小麦粉を入れないだけでなく、”つなぎ”も一切入れない、粉と水だけの『生粉打ち』と呼ばれるそばなのです。
十割そばを歯ごたえや香り、あまみを生かして打つのはかなりハードルが高く、その証拠に、そば教室の講師でさえ、自分にはできないと自ら生徒を引き連れて食べに来ることもあるほど。
「十割だからこその香りや甘みを、まずは塩で堪能してほしいです。」と悠平さんは、自信を覗かせます。
そばの秘密
十割なのに食感も良いその秘密をお聞きすると、答えそば粉にありました。
使用しているのは、八ヶ岳で作られるオーガニックのそば粉「自然光香(じねんほのか)」。水は、木島平の天然水。
この自然光香には34種類もの栄養素が含まれており、中でもルチンの含有量が豊富。
実は、現在、国内で栽培されているそば粉に含まれる栄養素は14種類ほどと言われていますから、その差は歴然。自然光香には豊富なルチンが含まれているため、10割の生粉打ちでもボソボソしない、美味しいそばができあがるというわけです。
ちなみに、自生のそばには38種類ほどの栄養素があるそうで、自然光香は自生のそばに限りなく近いことがわかります。
そもそも、悠平さんのお父さんはそば屋を始める前、アイスクリーム店を営んでいました。時代の流れから、アイスクリームだけでは営業が厳しいため、定食も並行して出していましたが、陸前高田の金野さんというそば好きに出会ってから流れが変わりました。金野さんは、そば粉を作っている”そば好きのおじさん”だそうで、金野さんが作っているそば粉こそが十割で打ってもつるつるの自然光香で、幸輪の美味しいそばが生まれるきっかけとなったのでした。
一方の悠平さんはそんな両親を見て育ったこともあり、高校卒業後に調理専門学校へ進学。小布施堂の厨房、ドライブインで調理や接客などを経験し、3年ほど前から両親の店を手伝うようになりました。
接客が好きというのも、このあたりの経験から得られているのかもしれません。
一度結婚経験のある悠平さんには三人の子供がいますが、離婚した際、子供たちを引き取っていて、今は両親と同居しているのだとか。そうした経緯も明るく語ってくれるところに人柄の良さを感じます。
飯山がもっとオープンに明るくなれば良い
悠平さんは、店のweb発信にも力を入れています。植物性のつゆも用意して、ビーガンやベジタリアンの人にも食べてもらえるようにしているそうで、そのおかげでネット検索により訪れるお客様も多いとのことです。
来店するお客様の7〜8割が観光客。
残念ながら地元の人は、あまりそばを食べないようで、地元の人とのつながりもなかなかできていかないのは残念に感じているそう。
「飯山の人は、なんだか最初から諦めている印象もあって、もったいないと思います。もっとみんなオープンになれたらいいのになと感じているんですよ。」と悠平さん。
これからは夜の営業にも力を入れ、お酒やつまみのメニューも増やしていくそうです。
「夜、灯りがついているだけでも町の雰囲気は良くなるでしょ。もっと地元の人が交流の場として使ってくれたら、町全体が盛り上がっていくんじゃないかなと思います。」
地元の人同士がさりげなく交わる”地域の交差点”のような場所を作ることで飯山を盛り上げて行きたいと考えているようです。これからは、幸輪、そして悠平さん自身が起点となって、様々な幸せの輪が広がっていく日も遠くないと感じました。