足立崇さん:小さな町の印刷屋としてお客さんに寄り添う。紙や地域の未来を考えながら

小さな町の印刷屋としてお客さんに寄り添いたい

飯山市や周辺市町村の行政関係、各種団体、地域の企業や商店のチラシやパンフレットなど、幅広く印刷を手掛ける有限会社「足立印刷所」。
専務取締役の足立崇さんは、祖父、父に続く3代目。
ネットプリントも普及し、価格競争の激しい印刷業界ですが、足立さんは地域の人とのつながりを大切に、細かい注文にも1件1件丁寧に応じています。

印刷屋の3代目として

60年ほど前に、祖父が個人でガリ版印刷の仕事を始めたのが足立印刷所の始まり。
会社にしてからは40年ほどになりますが、それでも飯山市内では一番新しい印刷屋だそう。
「自営業で、長男なので、小さい頃から祖父母からは継いでほしいと言われていたし、自分でも何となく、継ぐのかなぁ…とは思っていました」
市内の高校を卒業後は関東の大学に進学。
東京で旅行会社に就職し、サラリーマン時代は全く後を継ぐ気はなかったといいます。
「9割くらいは継ぐ気がなかったが、1割くらいは『もしかしたら…』と頭に置いていました。『家を継いだらなかなか他の業界に携わることはないだろう、今のうちに自分のやりたい仕事をやってみよう』と、旅行好きが高じて、都内の旅行会社に就職しました」

仕事はやりがいもあり充実した日々でしたが、毎日終電での帰宅という日が続き、26歳のとき体調を崩したのをキッカケに「とりあえず…」という気持ちで飯山に帰ってきました。
「両親からは、このまま継げとは言われなかった。やってみて嫌ならやめればいいと言ってくれたので、気は楽でした」

「消防や青年会議所、商工会などのつながりや、田舎で商売をやっている中で沢山の人とのつながりができて、地域との関わりが増えていくうちに、だんだん『ここでの生活もありだな』と思えるようになって、気づいたら帰ってきて12年目になりました」

サラリーマン時代は、仕事は仕事、プライベートはプライベートという生活。
飯山では、それにプラスして仕事でもプライベートでもない、「地域」というものがあります。
「東京での生活にはなかった『地域』というものが増えたことで、『これはこれで面白い』と。仕事にもプライベートにもつながってくる。これがなかったら、今ここにいなかったかもしれません」
でも、すごく面倒くさいんですよ、と足立さんは笑います。
地域でのつながりをつくることで、仕事やプライベートが充実してくる。
そこにあるのは、東京でサラリーマンをしていた頃の価値観とは全く違うものでした。

飯山市のお年寄りの写真が満載で、メディアにも取り上げられて話題になった、フリーペーパー「鶴と亀」の印刷も手掛けました。
「伝説の1号は印刷部数も少なく、すぐになくなりました。小林君(小林直博さん)が埼玉の大学に通っていたころ、「こういうのが作りたい」と相談に来ました。若い子がやりたいことは協力しようと思って。利益云々より、カタチになって、話題にもなって、一緒に楽しませてもらったという感覚です」
良くも悪くも、何かやるとすぐ話題になる。まちの規模や自然、東京へのアクセスの良さなど、いろんな意味で「ちょうどいい」と今は感じているそうです。

ネットプリントと共存して印刷物の価値を上げたい

印刷業界は、ペーパーレス化や企業のコスト減で厳しい業界。
「ネットで安く発注できるのは世の中的に当たり前の流れ。ただ、ネットプリントですべての需要をまかなえているわけではなく、小さな町の印刷屋さんとして、ネットプリントではまかなえない部分の需要をしっかりフォローをしていけばいいので、そんなに焦ってはいません。むしろネットプリントと共存して印刷物全体の価値を上げていきたい」
書類のペーパーレス化は進みましたが、「これだけは遺したい」という大事なものは紙で遺すという価値観は、むしろ1つ1つの印刷物の価値を以前より上げてくれていて、「やりがいがある」といいます。

仕事も地域も「持続可能」な形に

持続可能、ということを重要なテーマとして考えているという足立さん。
間伐材などを使った紙を使うなど、紙を消費する業界として環境への配慮の必要性が高まっていますが、コスト面など課題も多いです。
「無理をしない範囲でできることを、考えていかないといけない」

仕事だけでなく、地域の組織や行事なども、年々若い世代が減っていく中で、今あるものを今の形のまま持続させるは難しくなってきています。
「担う人はどんどん減っていくのにすべてを今まで通りやって、もっともっとは疲れてしまいます。限られた地域と限られた人しかいない中で、諦めるものは諦める、遺すべきものは遺す。田舎の面倒くさい部分の魅力を若い世代に伝えていくのも大切な仕事です」
人もお金も循環型で考え、今ある資源を磨いていく。
そのために、自分たちの立ち位置を考えて、できることからやっていく―。町の印刷屋として地域に寄り添い、地域の未来を考えています。