水野学さん

お客さんに選ばれる飯山にするために「経験価値」を高めたい

戸狩温泉スキー場の麓にある民宿「戸狩温泉アルペンプラザ」。

全34室あり、冬のスキー客をはじめ、春・秋の自然体験教室に訪れる首都圏の小中学生、夏は合宿にやって来る大学生など、1年を通じて様々な宿泊客を受け入れています。

この宿を両親と共に切り盛りしている水野学さん。

軽井沢を拠点に国内外で宿泊施設を展開する「星野リゾート」で勤めた経験を生かして、民宿の3代目として奮闘しています。

星野リゾートに入社

小さい頃から、身近にお客さんがいるのが当たり前の環境で育ち、高校を卒業するまではアルバイトで民宿の仕事を手伝って過ごしていた学さん。

山育ちで海への憧れがあり、高校卒業後は、スキューバダイビングのインストラクターになりたくて修行するなど、東京・神奈川で活動していました。

実家に帰ることを考え始めていた25歳頃。

星野リゾートの面接を兼ねたセミナーが都内で開かれることを知り、星野佳路社長の本を読んだことがあったので「面白そうだ」と思い参加。思いがけず面接を通過し、その後の2次面接で採用が決まり、星野リゾートに入社しました。

「星野リゾートは、フロント業務、清掃、食事の準備など、従業員はマルチタスクに働くので、民宿と似ているところがある。実家でのアルバイト経験があるから使えると思ってもらえたのかも。ラッキーでした」と学さんは笑います。

その後は、伊豆や沖縄の宿に計3年ほど勤務。

「生産性の部分など、勉強になる部分が多かった。星野リゾートを辞めてから、すごさに気づかされる部分も多くて。辞める前よりも社長の本を読んだりして追いかけることが多くなった」。

星野リゾートでの経験から、経営の面白さを知ったといいます。

大好きな仕事=実家の仕事!

アルペンプラザでは、父がフロントと経理、母が料理、学さんは、ネット予約用の宿泊プランづくり、ホームページ用の動画や写真撮影、アルバイトへの指示など、サービス全般を担っています。

両親は住みながら民宿業をしていますが、学さんは宿の近くに住んで通勤。妻は家業には関わらずに別の仕事をしています。

「もともと一緒に宿をやってもいいし、やらなくてもいいというスタンスで帰ってきた。自分たちにとっては今の形がベスト」と話します。

今はまだ両親が中心になり経営していますが、代替わりをしたら家族経営のスタイルから会社組織にしていこうと考えているといいます。

「小規模なら民宿の良さをいかせるかもしれないが、規模が大きいので、お客さんにとっては民宿というよりホテルの感覚だと思う。ギャップがあり、このままのスタイルで続けていくのは時代背景的に難しい」。

祖父の代に小さく開業し、父の代で規模を大きくした宿。

60代の両親がこれまで培ってきたノウハウと自分のやりたいことが食い違うことがあり、「実家で働くメリットとデメリットがあって、うまくいかない時もある」と、家業ならではの難しさを感じています。

しかし、「だからといって辞めたくはない。この仕事が好きだから」と言い切る学さん。

「ほかのサービス業と比べて、宿泊業はお客さんの時間を大きく預かる仕事。その分ヘビーだけど、できることがいっぱいあってやりがいが大きい。大変だというより、やりたい気持ちが大きい。すごくやりたい仕事がたまたま実家の仕事だったという感じですね」。

選ばれる飯山、選ばれる戸狩にするために

「合宿で大人数で来てもらうのはありがたいが、『飯山だから』と来ているわけではない。飯山だから来てもらえるようにしないと持続していかない。飯山のように食べ物がおいしくて自然が豊かな土地は日本全国にあるから」。

現在スキーシーズンの売上げは、全体の6~7割を占めています。

「毎年ちゃんと降るかわからない雪に頼りすぎるのはリスクがある。グリーンシーズンのお客さんをいかにコンスタントに呼べるかがこれからの課題です」。

星野リゾート時代に、沖縄の宿で、「星空ツアー」やゴルフカートで野生のコウモリやクジャクに出会える「ナイトサファリ」などの体験プログラムを実施してきました。

「これなら戸狩でもできる」とヒントを得て、ゴールデンウィーク中などに一般客向けに星空ツアーを企画。車でスキー場の上まで行って星空観察をしています。

「曇り空だったり、月夜で星が見えなかったりと天気に左右されますが、星が1つしか見えなくても、地元の話などのトークで盛り上げています」。

たとえ星が1つしか見えなくても記憶に残る経験を提供する―そういう「経験価値」の部分を強めていきたいといいます。

「ただの旅行では経験できない、ローカルな人との深いかかわりが求められている時代。田舎に友だちができれば、それはプライスレスの価値がある」と考え、体験コンテンツをますます充実させていこうと、農業体験なども増やしています。

 

 

 

 

冬には、スノーシューで雪原を歩くナイトツアーも計画中です。

「自分にとって、今はしっかりと実績づくりをするのが大事な時。今は自分の宿の足場固めをして、ゆくゆくは戸狩全体の観光を盛り上げていきたい」と、腰を落ち着けて、じっくり確実に地域の未来を広げるために、前に進み続けています。