庚敏久さん

スノーシーズンだけではない、飯山の魅力を生かした仕事

千曲川、北竜湖でのカヌー、千曲川、信濃川でのラフティングツアーを提供する「パワードライブR117」代表の庚敏久さん。

「冬は毎年1m以上の雪が降り積もるのに、夏は裸になって水に飛び込める。こういう環境は世界でも類を見ないと、外国から移住してきた人たちに言われます」と話します。

夏は夏の楽しみ、冬は冬の楽しみがあるのが飯山の魅力。

季節が巡るのを待ってさえいれば、ただここにいるだけで、川遊び、スキーができる。その環境をそのまま仕事に生かす庚さんにお話をお聞きしました。

自然が仕事

飯山市のまちの真ん中を流れる、日本一長い川、千曲川。

開発の波にさらされずに、自然がそのまま残る北竜湖。

「フネは全国どこでも浮かべられるかもしれないが、そこにある環境はその地域にしかない。千曲川はテトラポットなどの人工物がほとんどない景観が好まれて、都市部の人たちに喜んでもらっています」。

飯山に当たり前にある手つかずの自然が庚さんの仕事場です。

ゴールデンウイークから10月末頃までがフネのシーズン。

もともとは若者世代や親子連れをターゲットに考えていたそうですが、カヌーについては、現役をリタイアして新たな趣味を探すシニア世代が、5年ほど前から圧倒的に多くなったといいます。

「日本一長い川を、後からまちの真ん中に作ったり、雪を降らせようと思って降らせることはできない。自然に対抗して不満ばかりを感じながら生きるより、お客さんに喜んでもらって対価をいただきながら生活するほうがストレスなく生きられるんじゃないかと思います」。

夏はフネ、冬はスキーのインストラクター。庚さんの1年は、四季の移ろいと共に流れています。

スキー中心の生活からフネの事業へ

戸狩温泉スキー場近くで民宿を営む両親のもとで育った庚さん。

小・中・高校、大学と、アルペンスキーをやり、就職したのは東京のスキーメーカー。

サラリーマン生活を30歳まで続けましたが、業界的にも売り上げが下がっており、漠然と「親元に帰れば、何かの役に立てるかな」と考え、実家に戻ってきました。

そこで目の当たりにしたのは、空き室だらけの宿。

「何とかこれを埋める方法はないか」と考えていたときにフネの事業者と知り合い、自分でやってみようと、宿の一事業として2007年にスタート。

次第に、実家の民宿だけでなく他の宿にも仕事を広げていき、2012年には個人事業主として独立しました

地元の子どもたちにも川体験を

庚さんの10年越しの念願がかない、2019年から、飯山市内の小学校7校の5年生の授業にラフティングが組み込まれるようになりました。

しかし、大人から「危ないから行っちゃいけない」と言われ、川に入ったことすらない子どもが大半。「本当に大丈夫なのか」と心配する保護者もいました。

「大人も実は川のことを知らない。だからとりあえず『行くな』と言う。でも毎年首都圏の子どもたちがラフティングを体験しているのに、地元の子どもたちができないなんて悔しいじゃないですか」

小学校の保護者説明会では、子どもたちがラフティングを体験する映像を観てもらい、納得してもらったといいます。

ラフティング教室を実際にやってみたところ、「子どもたちは大ハッスルでした!」と庚さんはうれしそうに話します。

その後、フネを車につなげて道路を走っていると、子どもたちが手を振ってくれるようになり、保護者にも声を掛けられるようになったといいます。

 

 

スモールビジネスの時代へ

「フネの仕事を始めた2007年当時、周りには僕と同じような会社は全くなかった」と庚さん。

今は、自転車を貸し出して原生林に案内する事業など、同じような価値観のビジネススタイルが定着してきて、仲間は6社くらいに増えました。

千曲川を仕事場にしている会社は数社だけなので、「もっと増えて切磋琢磨して競い合ったり、コラボして1社ではできないような大きなことができたら」と話します。

「大規模開発、大規模投資で、どこでもリトルトーキョーにしてしまうような20世紀型のビジネスから、目の届く範囲の少人数のお客さんに今ある自然を生かして楽しんでもらう、21世紀型のスモールビジネスの時代になりつつある。大きな会社に入って雇われるより、自分の信念を大事にしてやっていきたい」。

情報発信も、今の時代は、お金をかけなくてもスマホ1台でできます。

川の映像を自分で撮って世界に発信できて、その情報をキャッチしてくれる人がいます。

現在42歳の庚さん。
「10年後もフネを漕いで、お客さんを助けたりするのは体力的に大変なので、後を継いでやってくれる人が出てこないかな。やりたいと言う人がいたら、自分がバックアップして助けたい」。

かつて、ただ邪魔者扱いされていた雪がスキーに活用されたように、川の価値に気付いて多くの人にもっと川に関心を寄せてもらいたい―。

庚さんはフネを使い、未来への「種まき」を続けています。